はいからいおんパート2 魚卵 忍者ブログ
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即興小説トレーニング
お題:愛と欲望の天井 制限時間:15分
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 二人暮らしをはじめることを想像する。一人暮らしをはじめる前みたいに、壁紙もベッドも本棚も全部思い通りにしてやるんだって、意気込んでいる私たちです。色は全体的にパステルにいこう。壁紙はサーモンピンクのぐっと薄いやつね、と彼女は言う。じゃあ天井は海模様がいいと私が言う。
「海模様?」
「だって天井に海ってなんか、なんともあれじゃん」
「まじなに言ってるかわかんないわ」
「深海にいる夢をよく見るんだよ」
 深海にいる夢をよく見る。彼女も私も小さい魚で、水圧とかよくわかんないけど、自由に生きていて、きれいなシュッとしたかたちの、健康な、白い魚。
「私たち魚なんだけどね」
「うん」
「つがいの」
「うん」
「深海にはすごい珊瑚みたいなやつとか、すごいイカみたいなのもいっぱいいて、珊瑚みたいなやつには卵がなってる」
「卵が」
「すごいイカみたいなやつにもらった墨で私たちは詩を書き記すことができるんだけど」
「魚なのに?」
「だってこの夢を見てるのは私だし。人間だし」
「ずるい」
「うるさい」
 それで私たち白い魚族は競って詩を書く。コンテストだってあるのだ。白い魚族はたくさんいるけど、そんなに大量には増えない。珊瑚になってる卵に詩を与えて、うまい具合に詩のなかの愛とか欲望とかを染み込ませることができたら、そうして卵に宿った感情みたいなものが、白い小魚になって生まれるのだ。一匹で詩を書き続けて、自分だけの感情で魚を生みたいってがんばってる魚も、クラスメイトみんな集めてペットみたいな魚を生みたいって画策してる魚たちも、いる。でも珊瑚の卵はそう簡単に詩を受け入れてくれるわけではない。たぶんルールみたいなものがあるんだけど、それは何回見てもわからない。珊瑚の前に詩を送ってはうなだれる魚たちを見ては、悲しいみたいな、でもほっとするみたいな気分になる。
「どうでもいいけどみたいなって言い過ぎだと思うよ」
「だって例えるしかないんだよ。うるさい」
 それで、つがいの魚はつがいで詩を書く。上の句と下の句をべつに作るとか、相聞歌のやりとりをするとか、やりかたは魚それぞれだ。私たちはつがいの魚で、二匹で詩を作ってる。海底で。
「海底で」
「詩を」
「オーケー?」
「オーケー」
「うん、だから眠るときに天井を見上げて、そこが海だったら、ここも、ベッドも海ってなるでしょ。海底じゃん? 詩を作ろうって。ふたりで。卵を」
「卵を」
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