はいからいおんパート2 デザイナーになりたい 忍者ブログ
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即興小説トレーニング
お題:僕とデザイナー 制限時間:15分

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 食器を洗うことや本棚の整理、金魚のうろこをはずしてみがいてちゃんとした位置にもどすこと、そういういろいろのお手伝いをこなすと母は10円だとか20円だとかのささいなお小遣いをくれる。僕はそれを日々貯めていく。一日にだいたい30円稼ぐので、一週間では200円は集まる。一ヶ月だと1000円くらいになるわけだ。そんなわけで日々の労働で得た大切な1000円を持って、毎月の第一金曜日には夢売りのもとに行く。
 前住んでいたところの最寄りだと、僕は夢を買うために女の人用のおしゃれな服屋がいっぱい入った大きなビルの中に行かなければならなかった。父の仕事の都合でこの島に引っ越してからは近い夢売りといえば古本屋街のなかにあるひときわ小さな小屋ということになる。いかめしい古本屋たちは、きらきら輝くすらりとしたお姉さんたちと同じくらい、子どもの僕にとっておそろしいものに思えた。けれど古本屋街を行くのはおとなを飛び越えて老人になった気分で(僕はつねづね老人になりたいと思ってくらしている。じいちゃんやばあちゃんの冒険ばなしを聴くのはとても楽しいし、それがだいたい老人になってからの話だと言うから、僕もはやく老人になる他ない)、気を抜けばすぐ丸くちぢまろうとする背を叱咤激励し、胸を反らしながら歩いた。
 何件かの古本屋のウィンドウの横を通ると、目的の小屋がある。薄桃色で塗装されていたのだろう看板はもうはげはげで、よくいえば味が出ている。「夢売り」の白い文字も同じようにはげはげの塗装だ。看板の下でしばらくウィンドウを見つめる。傷の多いくすんだ硝子の向こうでは夢のデザイナーさんが夢を編んでいる。白い肌の茶色の髪の女の子と、浅黒い肌の黒髪の女の子。姿形は全然似ていないんだけど、話をしてみるとしゃべりかたも全然違うのだけれど、不思議と双子のような雰囲気がある。
 彼女たちは僕を見つけると、またきたね、と嬉しそうに笑う。
 昼と夜というのが彼女たちの通称だ。夢を売ってくらしている。夜に見る夢だ。昼が集めたことばを硝子化した結晶を、夜が編んで夢にしたてていく。
「海の夢をください」と言った。
 ほんとうはもっとうまくしゃべりたいのだけれど、古本屋街のもたらす緊張のせいで、僕はまだ注文しかしたことがない。
「海の夢だね」と夜が言って、昼になにか指示をする。
 昼は暗いいろの戸棚から、青と透明のたくさん入った瓶をとりだす。僕は千円を払う。
「きみは大きくなったら、私たちのようにデザイナーになりたいんだろう」と夜が言う。
 こんなふうに話しかけられたのは初めてだ。なにも答えられないでいると、
「安心しな、きみにもすぐに夜が見つかる。いいことばを集めておきなさい」と夜が笑う。
 僕にも夜がいるのか。というか僕は昼なのか。
 そうか。
 昼が白い手で瓶のなかから硝子をよりわけるのをぼんやりとながめる。
 よくわからない。ただ幸せな気分だった。

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