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よくわからんけどどうやら私はトミコと喧嘩したらしかった。トミコは部活を終えるとぷりぷりと怒りながら勝手に帰ってしまって、私には私たちふたりのあいだにどういうことがあったのかもわからないままである。こういうのはよくあることだ。とりあえず親友というあいだがらを設置されたのでふたりはいつも一緒にいるが、トミコのシステムに従いたがらない性格もあって、私たちはよく喧嘩をする。他の「親友同士」を見てみると、喧嘩をすることはほとんどなく、別々に帰ることも滅多にないようだから、これはけっこう異常なのだと思う。
でも私はこういう状態を嫌いではない。
まず私とトミコはどういう喧嘩をしたのだろうかと想像する。トミコはやたらと感情的で、少し意見が合わなかったことについても喧嘩だ喧嘩だと言って怒りだして、ひとりで歩き出してしまう。前は靴ひもがほどけたのを注意されたのに、私が直さなかったことが始まりだった。
「靴ひも、ほどけとる。危ないよ」
「あ、ほんとうだ。つぎ止まったときに結ぼう」
「つぎっていつ止まるんよ。信号ないよこの先」
「帰ったら靴脱ぐときに、明日用に結び直すよ」
「じゃあきょうこの先に転んで死ぬかもしれないじゃん!」
「ないない」
という流れだったと思う。思い出すとトミコは私を心配してくれていたんだなというのがわかってわくわくする。そうだ、他にも私の前髪が伸びすているのを指摘されてでも無視したり、ハンカチを忘れてることを気づかわれてあしらったり、そういうのが原因であることは多い。あんたは冷静だけどじぶんに興味ない感じだから困る、とトミコはよく言う。トミコは情熱的すぎるよ、と私は返す。
さて、そんなことを考えているあいだにもうマンションの前に着いてしまった。隣のとびらをあけるとトミコがいる。答え合わせもすぐに出来てしまう。考え足りない気もするし、考えの足りないところがトミコを怒らせるわけだけれど、どうしようか。
そういえば傘を部室に忘れてきてしまったなと思う。
おそろいの傘だった。誰にも盗られないとよいけれど。トミコは私を落ち着き過ぎというけれど、こうやって「喧嘩」したあとだとこうやってよく忘れ物とかしてしまうから、まだ落ち着き過ぎにはなれないなと苦笑い。どうせトミコは熱いやつだから、私はごくごくクールになりたい。補完しあう親友関係っていいじゃないってずっと思っている。
自室の鍵を開ける前に、トミコの扉をノックする。
「ちょっと待ってて!」
「何秒くらい?」
「もういいよ」
鍵の開ける音がするので、私は扉を開く。
「お誕生日おめでとう!」
トミコがクラッカーを鳴らしながら言う。
そうか、と気づく。きょうは私の誕生日だったらしい。誕生日なんてもう誰も祝わなくなって久しいのに、トミコは私の誕生日を忘れない。
「勝手に帰っちゃったから、また喧嘩して、トミコだけひとりで帰っちゃったのかと思ってた」
「なんだ、あんたもたいがい気にし過ぎだね。そんなん妄想だよ。今回はノー喧嘩です」
「そっか」
「ただ、隠し事ってあたし苦手なの。サプライズにしたくて、黙って帰っちゃった。ごめんね」
「ううん、いいよ」
トミコは私に許されて、にっこりと笑う。そうだ、と思い出して言う。
「ありがとう、トミコ」
「どういたしまして」
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