はいからいおんパート2 月がきれい 忍者ブログ
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即興小説トレーニング
お題:絶望的な命日:30分

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 だいたい話題がつきたころにはいつも死ぬとか生きるとかの話になる。そういう話がしたくてこうやって公園のベンチにふたり、夜になるまで並んでいるのだろうと思う。同じ小学校、同じ中学校、同じ高校に通い、そのあいだじゅうずっと親友関係でいて、そのあいだじゅう話題がつきるたび死ぬとか生きるとかの話をしていたような気がする。だからもうこのお題についての話もつきるだろうと思うのだけれど、そうはならない。だんだん深刻にもなってくる。小中高の学生生活が終われば、「親友」の関係は解消される。それからどうしようねって話だ。
 ふたりで死んじゃおうか、という冗談はいつもトミコが始める。
 親友の制度はいろいろの管理のためにあるらしいけれど、私たちのようにときどきこうやってほんとうに友情らしきもので結ばれるふたりが出現すると言う。バグである。困ったものだなあと私が言うと、もっと心を込めていいなさいとトミコが笑う。二人組で管理される私たちは、これからひとりひとりになって、二十歳になるまでにあたらしい二人組にならなければならない。この世には異性というものが存在して、どうやらそれとつがわされるとのことだ。そんな見たこともないものと二人組になるなんておそろしい。けれど新しい二人組を見つけられなければ廃棄されてしまう。ひとりひとり、別々に。
「そんなのってないよね。せっかくずっとふたりでうまくやってきたんだ。ふたりでうまいこと死んじゃおうか」
 無駄遣い用に配布されている小銭で買った肉まんはすっかり冷めてしまって、私はそれをどう処理するかで悩んでいた。その話を振ろうとしたところで、またトミコはこの話を切り出す。
「死ぬんならどんな日がいいかな」
 ちょっと考えて、その日についての話をすることに決め、そう返した。
「どうせなら最悪な日にしよう」
「最高じゃないのか」
 最悪な日というのは新しいワードだな、と思う。マンネリな話の始めかたをして、そして新しい方向に持っていく。そういうのが上手なのは断然、私よりトミコで、トミコのそういうところが大好きだ。
「うん、最悪最低な日。だって死ななきゃならないんだよ。死ぬって痛かったり苦しいらしいし」
「でも二人組でいられなくなるよりましだから死ぬんでしょう」
「その、いられなくなるのが痛くて苦しいから、その通りに最悪に死ぬんだよ」
「そうか」
「そう」
 トミコは深いことを言うなあ、と言うと、ふふふと嬉しそうにするトミコ。
「深いか」
「深い」
「ありがとう」
 感謝の言葉を言い合うことも増えた。なんだか別れの伏線のようで嫌だなと思うのだけれど、それを言いだすことはまだできていない。
「死ぬってどうやるんだろうね」
 ごまかすみたいにそう言った。
「どうやるんだろうね」
 トミコも唇を突き出して、これは考えるときの表情だ。きょうは人工月が明るいから、唇の赤いのもよくわかる。林檎とかマグロのお刺身が食べたいなと思った。こんどは肉まんなんかに手を出さず、小銭をためてそういうものを買おう。
「とくに、最悪最低な日に、最悪最低な方法で、絶望的に死ぬ、これは難しい問題だよ」
 私が適当な食料のことを考えているあいだも、トミコはまだ死ぬことについて思いを馳せていたようだった。
「絶望的に」
 私はトミコの言葉を繰り返す。痛くて苦しいと言うから死ぬこと自体が絶望的なものだと思っていたけど、それにも絶望的とか希望的とかがあるのか、おもしろいことだ。
「なに笑ってるの」
 トミコがこちらを睨んでいるのに気づいて、あ、これはまたトミコが勝手に怒り出すやつだぞとちょっとだけ焦る。だけどこの「やつだぞ」と言うのがわかるようになっただけ私も成長したのだ。私とトミコの会話はよく噛み合ずに、私はトミコを自覚しないまま怒らせてしまうことが多い。
「絶望的っておもしろいなって思って」
 私はトミコに説明する。
「もう。わかるように言ってよ」
「自分でもわからないんだよ」
「そうか」
「そう」
「あんたもなかなか深いこと言うね」
「深いか」
「深い」
「ありがとう」
 こんどは私が「ありがとう」を言ってしまった。私が顔を伏せると、トミコは反対に顎をあげて、どうやら月を見ているようだった。
「しかしね、その他にもあればいいんだけど」
「なにが」
 私はトミコに訊ねる。トミコの話はいつも唐突である。
「ずっとふたりでいる方法」
 トミコの答えをきいて、そうだね、と答える。逃げるのはどうだろう。逃げる、どこへ。わからんけど、逃げるってときどき映画で見るよ。逃げるなら二人なんだね。二人なんだよ。
 そこから見てきた映画の話になって、映画に出ている私たちに似た動く影たちは人間と言って、彼らは映画の人生とほんとうの人生のふたつ以上があるらしい、という話になる。命日を迎えることに関して、ほんとうは絶望的に無理だって気づいている、たぶんトミコも。
 私たちはどうにか逃げて、生き延びて、死なずに二人でいるべきなんだと思う。ここが映画ならいいのにね、いいのにね、そうやって言いながらベンチから立ち上がり、ふたりで帰路につく。
「月がきれいだね」
「そうだね」
「いま月がありがとうと言ったよ、トミコ」
「珍しいねそういう冗談」
「ときどきは言うよ」
「おもしろい」
「おもしろいか」
「そうだよ」
「ありがとう」
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